「ミュンヘナー」はアウト? 日欧EPAの「GI制度」は日本国内醸造のビールにも適用

ミュンヘナー

2017年7月に日本とEUの間で大枠合意した日欧経済連携協定(以下、日欧EPA)によって、今後、日本国内で醸造したビールに対してもいくつかの欧州地名が商品名に使えなくなるというルールが適用されます。

※ 本記事は2017年8月26日に公開した内容をベースとして、追記や修正を行ったうえで2017年11月26日に更新したものになります。

 


産地ブランドへのタダを乗り防ぐ制度

日欧EPAによって出現するのは、2017年現時点で世界GDPの約3割におよぶ“超巨大自由貿易圏”。そのなかで日本から欧州に輸出される自動車や、欧州から日本に輸入される食品等、さまざまな分野で関税の撤廃や削減が行われます。

ですから今回の合意は日本経済にとって大変な成果と考えていいように思いますが、日欧EPAでは貿易自由化とともに、各分野の課題に応じてルールの適正化も進められます。「保護すべきものは保護しよう」という流れもあるわけですね。

その1つに、品質や特性が原産地に由来する酒類や農産品について「地理的表示(GI:Geographical Indications)」、つまり産地名のブランドを保護するという動きがあります。これは、大ざっぱに言うとブランドへの「タダ乗り」を防ぐため、産地名を知的財産として登録・保護するというルールづくりです。

 

「ミュンヘン」や「バイエルン」のビールも対象に

この動きにともなって、先日、日欧双方が互いに保護することで合意した、酒類や農産品のGIリストが公表されました。

日本側の産品は、たとえば酒類では「日本酒」。今や国際的にもブランドが認知されている日本酒ですが、新しいルールによって、一部の地域で溢れている「日本酒を騙った模造品」が、少なくとも欧州では販売できなくなります。一方、欧州側はというと酒類に絞れば139品目。そのほとんどは「ボルドー」「ブルゴーニュ」「シャンパーニュ」などのワインや「グラッパ」のような蒸留酒になります。

ただ、ビールもいくつかあって、ドイツの「ミュンヘナー・ビア」「バイエリッシェス・ビア」、チェコの「ブジェヨヴィツケー・ピヴォ)」等が保護の対象になります。つまり、日本でのみ醸造・販売する場合でも「ミュンヘナー・ビア」という商品名は使えなくなるわけです。

※ ピヴォ(pivo)はチェコ語で「ビール」

国税局が定めた「酒類の地理的表示に関する表示基準」によれば、産地名を翻訳したり、「種類」「型」「様式」「模造品」の表現を伴って使用することもできませんから、「ミュンヘン・ビール」「バイエルン(バイエリッシェス)・ビール」といった表現もできなくなる筈です。

 


一部のブルワリーにとってはチャンスかも?

とはいえ、こうしたルールが実際に導入されるのはかなり先のお話になりそう。2017年8月の“大枠合意”以降は、「2017年内の“大筋合意”と2019年の発効を目指す」というスケジュールで、発効後も数年の猶予期間が設けられるようです。ビールの保護範囲はワインや蒸留酒に比べてそれほど広くないこともあり、今回の合意で多くの国内ブルワリーが厳しい状況に追い込まれるわけでもなさそうですね。

むしろ日本側の地理的表示保護対象には「日本酒」や焼酎の「薩摩」も含まれるので、玉村本店(志賀高原ビール/長野)や熊澤酒造(湘南ビール/神奈川)等々、運営母体が伝統的な蔵元となるブルワリーも多い国内クラフトビール業界にとっては、明るい見方があるのかもしれません。

 

 

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特集Beer,ビール

Posted by shioriworks0520