ムラカミセブン誕生の経緯は?キリンビールが国産ホップの取り組み発表

キリンビールは2026年4月、同社ビールブランド「SPRING VALLEY BREWERY JAPANエール 香(以下、JAPANエール 香)」のリニューアルや、都内渋谷での期間限定アロマショップ「CRAFT AROMA SHOP Presented by SPRING VALLEY BREWERY(以下、CRAFT AROMA SHOP)」の開催など、日本産ホップに関するさまざまな取り組みを発表しました。
本記事では、4月初旬に都内で開催された「『CRAFT AROMA SHOP Presented by SPRING VALLEY BREWERY』メディア向け発表会&アロマショップ内覧会」の様子等をレポートします。
ホップの香り楽しむ新しいビール体験
“ビールの魂”とも言われ、多様な香りを生み出すホップ。キリンビールによると、昨今のクラフトビールシーンではホップがつくりだす香りに期待する顧客割合が日々高まっており、香りがビールの魅力として定着してきているとのこと。そうしたなか、海外のホップ品種とはまた異なる繊細さや奥行き感、そして上品な香りと苦味を特徴にしているという日本産ホップは、「突出した個性があるというより全体の調和を高める役割を担っている。また、原材料として欠かせないだけでなく、地域や人、ビール文化をつなぐ存在にもなっている」と語るのは、最初に登壇したキリンビール クラフトビール事業部 SPRING VALLEY BREWERYブランドマネージャーの久保育子(くぼ・いくこ)氏です。
一方で近年のホップ産業では、ホップ農家の方々の高齢化に伴い、生産者数や生産量が減少傾向にあるそう。これに対してキリンビールは、持続可能な国産ホップの産地づくりを実現すべく、栽培基盤の整備、収穫量増加のための土壌検査・分析および各種研究、新規就農者の募集・育成等、さまざまな支援に取り組んでいるとしています。
その一環として、収穫したてのホップを使ったビールの祭典「フレッシュホップフェスト」の開催に加わるなど、さまざまな取り組みを行ってきたというSPRING VALLEY BREWERY。生産者やつくり手と連携したクラフトビール産業の成長につながる取り組み強化に加え、2025年12月からは同社定番ビール「JAPANエール 香り」のリニューアルも実施。さらに、今年は年に4回のテーマを設け、「ワクワクするビール体験」を提供することでブルワリーのファンを増やすことはもちろん、「いつものビールもいいけれど、こういう新しいビールの楽しみがあったんだと、皆さまに気づいていただくきっかけをつくりたい」(久保氏)とのこと。年4回におよぶ取り組みの第1弾として好評を集めたという「スイーツ×ビールによる新しい楽しみ方の提案」に続き、今回スタートする第2弾のテーマは「奇跡の日本産ホップ」。“奇跡の日本産ホップ”と言われるムラカミセブンを軸に、香りとホップのストーリーを楽しむビール体験を提案していくとしています。
英WORLD BEER AWARDSで世界最高賞
2023年に発売した「JAPANエール 香」は、ホップにムラカミセブンとIBUKIを使用し、日本人に合う「香り」にこだわって開発したというペールエールです。発売以来高い評価を集め、イギリスで毎年開催されている国際ビアコンペ「WORLD BEER AWARDS」では昨年、ゴールデンエール部門で金賞を獲得しました。ただ、「本当はムラカミセブンをもう少し多く使いたかったが、2023年当時は収量がまだ増えていなかった」(久保氏)とのこと。その収量が近年は安定的に増えており、ようやく使用量を増やすことが可能になったという昨年のタイミングでリニューアルを実施。ムラカミセブンを約2倍に増量したほか、ホップ添加のタイミングを調整し、渋み・苦みを低減しながら香りをさらに立たせることに成功したとしています。
「私個人も、今回中身の開発を担当したブルワーの八巻もムラカミセブンが大好きで、その魅力をもっと高めたいと願っていた。今回は悲願のリニューアルで、ムラカミセブンの和柑橘のような香りが、さらに特徴的に感じられる中身に進化したと考えている」と、今回のリニューアルに自信を見せる久保氏。本商品を楽しむ際は、泡をしっかり立てる通常の注ぎ方でなく、あえて泡を立てず、よりダイレクトに香りが感じられる「香り立ち(だち)注ぎ」で飲んでみて欲しいとしています。
このほかにも、SPRING VALLEY BREWERYはホップの楽しみ方やストーリーを多くの人々に伝えるべく、直営店であるスプリングバレーブルワリー東京および京都(以下、SVB東京・SVB京都)にて「JAPANエール 香り」を香り立ち注ぎで提供するほか、SVB東京ではホップの香りが体験できるブースも期間限定で設置するなど、趣向を凝らしたさまざまな取り組みを進めていくとのこと。
4月3日(金)から5日(日)には、ホップの香りから着想を得たという3種の限定アロマを体験できるアロマショップ「CRAFT AROMA SHOP」も渋谷で開催しました。「おそらく日本のビールメーカーによるアロマショップは初めてではないかと思う」(久保氏)という今回のイベントに加え、首都圏や大阪ではムラカミセブンから着想を得たアロマオイルを使用したサウナロウリュウも展開。久保氏は、「ホップというと皆さまも普段なかなか馴染みがないものかと思うが、香りという側面から興味を持っていただくことで、ビールやホップの魅力にたどり着いていただくというか、感じてただければ嬉しい」と語りました。
江差に植え替えた株から“奇跡”が
続いて、“奇跡の日本産ホップ”と言われるムラカミセブンについて、「奇跡というと大げさに聞こえるかもしれないが、実際、(誕生する過程で)2つの大きな奇跡があったと思う」として、ムラカミセブン誕生した経緯などを語ったのは、同ホップの生みの親である元キリンビールの開発者、村上敦司(むらかみ・あつし)氏です。
村上氏によると、当初ムラカミセブンは普及を前提にしていなかったそう。香りや苦味の成分がどのように遺伝するのかを調べる基礎研究のための素材として、入社3年目の1991年に村上氏が交配したホップのなかに、のちにムラカミセブンと呼ばれる品種があったとのことです。その後、村上氏は学位を取得し、研究材料としていた100種近くのホップは役目を果たしたため、いつもであれば畑でも邪魔になるので掘り返して廃棄するつもりだったそう。しかし、「そのとき、ふと“20株ほど植え替えして保存しておこうか”と思いついた。将来的にまた何か遺伝の研究をするとき、再び交配からはじめると時間がかかるので。20株程度あればなんとかなるだろう、と」(村上氏)、100種のなかから20種ほどをランダムに選別し、岩手県奥州市の江差地域に「江刺1号」から「同20号」という名前で植え替えて保存したそうです。
その後しばらくしてビールもつくることできるようになった村上氏が、保存しておいた20株すべてをそれぞれビールづくりで使用してみたところ、1つ、とても香りの良い品種があったとのこと。それが「江刺7号」、のちのムラカミセブンでした。まずは、自身がおよそ100株のなかからランダムに選んで保存した株のなかに、そのホップが含まれていたということが「第1の奇跡だった」と、村上氏は振り返ります。
理想的な農業特性で生産者への貢献も
ビールにして美味しくとも、畑で手間がかかり収量が取れない品種であれば、生産者の方々につくってもらえない可能性はあったという村上氏。そこで畑におけるムラカミセブンの農業特性を評価してみたところ、「なんじゃこれは!? というほど素晴らしい、理想的な農業特性を示した。これが第2の奇跡だった」(村上氏)。丈と枝の伸びが短く作業負荷が低いことに加え、株あたりのホップ収量も多いことから、将来のホップ産業に貢献する品種として期待ができたというムラカミセブン。ただし、当時のキリンビールでは新しい日本産ホップを必要とする事業計画がなかったことから、実際の生産については「まあ、普及できずに終わるんだろうな」と思っていたそうです。
そんな「江差7号」が大きな転機を迎えたのは2011年の東日本大震災でした。震災からの復旧・復興に向け「誰もが自分でやれることをやる」という社会的なモメンタムがあった当時、「やはり自分がやれることはホップしかないのでは?」と考えたという村上氏。「あの香りの良いホップを増やして普及させ、新しいビールをつくったら、(自身の出身である)岩手はもちろん、東北の被災された皆さまにも喜んでもらえるのではないか」と考え、上司に掛け合ったところ、即GOサインが出たとのこと。そこからスタートして、2016年、ついにムラカミセブンを使ったビール「ムラカミセブンIPA」がSVB東京で発売となりました。
村上氏の“人生最大の失敗”とは?
一方で、ムラカミセブン商品化の過程では、村上氏いわく「人生最大の失敗」もあったそう。量産化に向けて「江刺7号」をキリンビールの担当者に渡した村上氏は、「このホップの最終的な名前はどうしますか?」と聞かれ、「僕はネーミングのセンスがないからお任せします」と答えたそう。すると後日、名前が「ムラカミセブン」になっていると聞かされ驚愕。しかし、その段階ではすでに配布物から何から何まですべてに「ムラカミセブン」と書かれており、特許庁にも「ムラカミセブン」で商標出願が進んでいて変更出来ない状態になっていたそう。「自分の開発した品種といえど、自分の名前をつけるなんて、、、世界中のホップ研究家の方々から“自分の名前をつけるなんて傲慢なやつだ”なんて思われてやしないかな、と」、いまだにハラハラしているそうです。
いずれにしても、そうした経緯でムラカミセブンを世の中に送り出したのち、2020年にはキリンビールを定年退職し、自身の出身である岩手県の遠野市に拠点を移した村上氏。「それでジャズ喫茶をはじめて、週末は好きなレコードをかけてゆっくり時間が流れるような日々を過ごしていたら、2021年にキリンから“ホップをもう少し手伝ってほしい”とのご相談をいただいた」とのこと。その最初の仕事がムラカミセブンを増やすことだったそうです。
通常、ホップの棚は5.5メートルの高さとなるそうですが、5.5メートルの高さでピタッと成長が止まるムラカミセブンは、「蔓を絡ませてあげる春の作業で基本的には終わり。あとは収穫を待つだけ。それで収量も良いものだから今は生産者の方々に大人気」(村上氏)だそう。遠野でも増えているほか、現在は同じくホップ生産が盛んな秋田県横手市でもムラカミセブンを扱う生産者が増えているそうです。「まだまだ増えると思う。近年はホップ生産の担い手が減っていたが、今後はそれも反転するのではないか。最近は遠野市への移住者が増えていて、その方々が“ホップをやりたい”とおっしゃっているので、今は彼らが栽培するホップの苗が必要になっている」とのこと。そこで現在は村上氏がボランティアで苗をつくり配布しており、今後のさらなる生産増が期待できると語ってくれました。
ハーバルな特徴と和柑橘の香りがひとつなぎに
香水や化粧品だけでなく食品・香料・お香なども手掛けるほか、アートの世界でも香りを表現として使うときがあり、「いわゆる調香師やパフューマーという領域に活動が収まらないため、“嗅覚のアーティスト”として活動している」という和泉氏
発表会ではこのほか、期間限定アロマショップ「CRAFT AROMA SHOP」で、ホップ着想のアロマ3種をプロデュースしたアーティストであり、香りを設計するスタジオ「Olfactive Studio Ne(オルファクティブ・スタジオ・ネ)」のディレクターを務める和泉侃(いずみ・かん)氏も登壇。村上氏と「ビール×アロマ」に関する対談を行いました。
和泉氏が今回手掛けたアロマ3種のなかでも、特にムラカミセブンから着想を得たアロマについては「これほど的確にムラカミセブンのモチーフを掴んだ表現・再現をなさる方がいらっしゃるのかと驚いた」という村上氏。調香にあたってモチーフにしたムラカミセブン・IBUKI・ネルソンソーヴィンのホップ3種のなかで、個人的にもムラカミセブンの香りが好きだったという和泉氏。ムラカミセブンについては、「ホップ特有のハーバルでグリーンで、少しビターな中核の香りと、和柑橘のニュアンスとが、本当に綺麗にバランスしている」とコメント。ハーバルでグリーンな特徴と和柑橘の香りが「僕のなかでは分離していないひとつなぎの香りとなって体の中に入ってくるイメージ。僕らの世界で言う“アコード”が本当に良いバランスで、1つの植物からこれだけ複雑な香りが、これほど綺麗なバランスで感じられるものなのかと、すごく驚いた」と、当初のインプレッションを語ってくれました。
「CRAFT AROMA SHOP」では、SPRING VALLEY BREWERYの3商品でそれぞれ採用されているホップ「ムラカミセブン」「IBUKI」「ネルソンソーヴィン」の香りを再構築したオリジナルアロマを展示
和泉氏が抱いたそうしたインプレッションについて、村上氏は「3つ目の奇跡」と表現。世界には200以上のホップ品種があるものの、その多くは“強い主張”を持っているとのこと。しかし、「ムラカミセブンにはそれがなく、ふわっと、そこにいる。よくよく感じると、ピンと背筋を伸ばした芯の強さがある。すごく繊細でバランスが整った世界」と語りました。
また、ホップは農作物であり、ムラカミセブンの香りも毎年少しずつ変わるのだそう。今回和泉氏が使用したサンプルは2025年の遠野産でしたが、2025年の7-8月は雨が降らず、ホップ球果の成長がゆっくりになって少し若めになっていたそうです。「それを見事に再現なさっていた。やはり気象条件には抗えなくて、今年はまた違ったムラカミセブンの顔が少し見えてくるかなと思う。そのぶん楽しみがまた増えるかな、と」(村上氏)。
最も畑に近い状態の香りをイメージ
ホップをメインにしたフレグランスが世の中に少ないこともあり、その調香に取り組むこと自体が初めてだったという和泉氏にとっても、今回の企画はチャレンジングだったそう。和泉氏としては、畑にあるフレッシュな状態のホップ、乾燥したホールホップ、ペレット加工されたホップ、そして完成品であるビールと、同じホップでも状態によって香りが変わる部分もあると考えていたとのこと。その意味では、「どこのホップを切り取るのが今回は正解なのかという悩みもあった」としています。
そのうえで今回は、ビールの香りをイミテートするのではなく、「想像上にはなるが、畑に最も近く、最もフレッシュなホップの体験をできるようなフレグランスをつくることができたら、新しい体験やビールにも興味を持ってもらえるのではないか、と。そこを再現することをイメージした」と、調香のポイントを語ってくれました。
「CRAFT AROMA SHOP」の展示では、それぞれ異なる個性を持つホップ3種について、「青さ」「湿度」「乾き」「果汁感」「苦味の影」という5つの方向性を設定。ホップが植物として持つ多面的な魅力をアロマフレグランスとして昇華したとしています
また、今回は村上氏やキリンビールの専門家の方々ともサンプルのやりとりを行うなか、香りの専門家として自身が感じるムラカミセブンの印象と、ホップの専門家が普段向き合っている解像度でのフィードバックに、良い意味でギャップがあったという和泉氏。「そのギャップが、僕自身としては面白かった。なるほど、と。1つの香料としてホップと向き合うのが初めてだったので、そうしたフィードバックを僕も勉強して取り入れさせていただきながら、1つずつ香りを完成させたことが、今回は一番大変なところだったかなと思う」とのこと。そうしてムラカミセブンの特徴をより拡張した形でフレグランスを楽しむことが、「ビールの香りに感覚を研ぎ澄ませて味わっていただけるようなきっかけになれば」と、ビールファンに向けた期待も添えてくれました。
また、村上氏も「今回の『JAPANエール 香り』でムラカミセブンの魅力を遺憾なく引き出して皆さまにお届けできることを非常に嬉しく思う」とコメント。「ホップの世界は深く多様性のある楽しい世界。その一端を味わっていただいて、ビールに、ホップに、ますます興味を持っていただけたら、これほど嬉しいことはありません」と、今回の成果と今後に向けた期待を語ってくれました。
「SPRING VALLEY BREWERY JAPANエール 香り」概要
- 商品名
- SPRING VALLEY BREWERY JAPANエール 香り
- 味わい
- 奇跡の日本産ホップ「ムラカミセブン」を一部使用した、爽やかな和柑橘のような香り。心地よい苦味とすっきりとした後味のペールエールです。
- 発売日
- 2025年12月中旬製造品より順次切り替え
- 発売地域
- 全国
- 容量/容器
- 350ml缶・500ml缶
3Lペットボトル(Tap Marché)/ 12月中旬製造品より順次切り替え
1Lペットボトル(キリン ホームタップ)/ 2026年2月お届け分より順次切り替え
15L樽(スプリングバレーブルワリー直営店)/ 2026年2月製造品より順次切り替え - 価格
- 希望小売価格(税抜き) 350ml缶:245円、500ml缶:325円
- アルコール分
- 6%
- 純アルコール量
- 350ml缶:16.8g、500ml缶:24g
- 製造工場
- キリンビール 取手工場、滋賀工場(予定)
- Webサイト
- 「SPRING VALLEY BREWERY」ブランドサイト
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