Hop & Brew Schoolレポート【Vol.1】Yakima Chief Hopsってどんな会社?

世界的なホップサプライヤーである米Yakima Chief Hops(ヤキマ・チーフ・ホップス)は2026年8月4日(火)、ホップにまつわる製品知識や官能評価・製品選定を総合的に学ぶ教育プログラム「Hop & Brew School® Satellite: Japan(以下、Hop Brew School)」を、都内のYEBISU BREWERY TOKYOで開催しました。
ホップにまつわる体験型教育プログラム
これまで22年間にわたって開催され、今回はサッポロビール、そしてビール原材料の輸入・販売などを手掛ける片岡物産との共催で日本初開催となった「Hop & Brew School」。日本各地のクラフトブルワー80名以上のほか、関係者を含めておよそ100名が訪れた熱気あふれる会場では、Yakima Chief Hopsの事業紹介、先進的なホップオイル製品の案内、アメリカおよびニュージーランドのホップ生産者による取り組みの紹介、日本ホップ産業の現状やサッポロビールのホップ育種に関する取り組みの紹介、さらにはホップ官能評価および選定のワークショップ等、多岐にわたるプログラムが実施されました。
非常に面白く学びの多いイベントだったので、本サイトでは、ほんの一部ではありますが、本プログラムで特に印象に残ったパネル等を数回に分けて読者の皆さまと共有したいと思います。【Vol.1】の今回は、ホップサプライヤーであるYakima Chief Hopsと、その育種パートナーであるYakima Chief Ranchesの概要と育種プログラム、そしてアメリカおよびニュージーランドのホップ生産者の方々による取り組み等をご紹介します。
2025年のホップ収穫量は1,500万kg超!
近年のクラフトビール人気に伴って、Yakima Chief Hops(以下、YCH)という名前もビールファンのなかでは広く知られるようになってきました。2025年にはキリンビールの次世代定番商品「キリングッドエール」で同社製品「Cryo Hop®」が採用され、話題を呼んだことも。今回の「Hop Brew School」では、そんなYCHと、その姉妹会社であり育種会社でもあるYakima Chief Rranches(以下、YCR)の事業概要や育種の取り組みに関する紹介からスタートしました。
YCHは14の家族経営によるホップ農場が100%所有するというユニークな組織で、現在はワシントン州とオレゴン州の同社オーナー生産者、そして同2州にアイダホ州を加えた太平洋岸北西部(Pacific Northwest:以下、PNW)全域で、契約生産者が栽培しているホップを受け入れているとのことです。YCHのミッションは「家族経営のホップ農家と世界最高峰の醸造家をつなぐこと」。「生産者を、醸造家の皆さまがいる市場へ、本当の意味で直接つなぐことができるホップサプライヤーになりたいと考えています」と語るのは、同社のChief of Customer SuccessであるBryan Pierce氏です。
2025年の同社収穫は、およそ1,572万kgで、栽培面積にするとおよそ7,500haに相当。収穫のうち75%がオーナー生産者、25%が契約生産者からとなります。全米のホップ農場の98%を占めているというPNWのホップ農場は、ワシントン州のYakima Valleyが主要な栽培地域で、ほかにはオレゴン州のWillamette Valley、アイダホ州のTreasure Valleyがあるそう。YCHが受け入れた収穫以外も含めると、2025年のPNW総収穫量は、Yakima Valleyがおよそ2,816万kg、Treasure Valleyがおよそ527万kg、Willamette Valleyがおよそ420万Kgにのぼったとしています(※)。
※ Based on HGA’s annual post harvest statistical report
交配から商品化まで10年以上にわたる育種プロセス
革新的な育種を通してホップ品種を開発しているというYCRも、Smith家、Perrault家、Carpenter家というYCHの創業3家が設立した組織です。YCRが育種と増殖を担う一方、YCHはホップを製品化して市場に届けるスキームのすべてを担当。両社でサプライチェーンの異なる段階をそれぞれ担当しており、YCHはYCR唯一の認定ディストリビューターということで、「両社の緊密なパートナーシップがYCHの強力な価値提案のひとつ。競合他社にないホップ育種からサプライチェーンへの広がりを通して、品質、継続的なイノベーション、サプライチェーンの信頼性を保証しています」と、Pierce氏は語ります。
Pierce氏のパネルではYCRの育種プロセスについても説明がありました。育種における最初のプロセスは交配と播種。ビール醸造に使用されるホップの毬花は雌株であり通常は種が入っていませんが、育種では、さまざまな特性をもとに選んだ雄株を雌株と交配させます。この交配によって、少ない年でも年4万株、多い年は年10万株ほどが生まれているそう。その後は株を畑に移し、それぞれの株がどのように育つかを評価。「害虫に強いか」「暑さに耐えられるか」「干ばつに耐えられるか」といった評価に加え、この段階から香りによる選抜もはじまるそうです。
続いて、畑で非常に優秀だったホップをセレクトしたうえで、もう若干規模を大きくした小区画へ移し、将来の栽培に適しているかどうかを評価していきますが、このフェーズでは主に農業上の適性に焦点を当てるとのこと。「高い収量で生産できるホップでなければいけません。理想的には害虫の耐性が高いものを探しています。香りについても常に評価しますが、避けなければならないのは、良い香りはするけれども農場でうまく育たないホップを市場に出すこと。従って、この段階では香りのメリットより農業適性のほうが重要なほどです」と、Pierce氏は語ります。
その後は収量拡大の試験に進みますが、ここまで来ると「その品種はかなり良さそうだ」ということで、実際に各品種を小規模な区画で栽培。異なる条件、気候、農場、または栽培方法で育つ能力を試し、収量がどう推移するかを確認していくとのこと。ここまでの評価はすべてYCRまたはYCHの内部で行われ、市場に出ることはないそうです。これに続き、YCH営業担当者やディストリビューターの話などを通じて、新しいホップについて市場で初めて耳にするフェーズに入りますが、まだ販売はスタートせず、社内外で試験醸造が行われるとのこと。「醸造家はこれを欲しいと思うのか」「人々はこの味や香りを求めているのか」「ビールにどのような影響を与えるのか」といったことを解き明かしていくフェーズであり、こちらは1~5年かかることもあるそうです。
商業化がスタートするのは、そのあと。価格が設定され市場で入手可能となり、多くのブルワリーがサプライヤーを通じてそれらのホップを知り、さまざまな実験等をはじめます。そのうえで、当該ホップが育種プロセスの最後まで進む価値があると証明できた場合、最終段階の商品化に進むとのこと。この段階で「HBC586」や「HBC1019」等と呼ばれていた品種に、ぞれぞれ「Krush」や「Dolcita」といった固有のネーミングが行われ、市場に投入されることになります。こうした育種サイクルは全体で通常10年以上かかりますが、品種によってもっと早く商品化されるケースもあれば、さらに長い年月を必要とするケースもあるそう。2025年に発売された「Dolcita」はプログラム全体がわずか7年だった一方、2024年発売の「Krush」は同じプログラムでも17年かかったそうです。
北半球では8-9月、南半球では3月に収穫
今回の「Hop & Brew School」では、米オレゴン州と、ニュージーランド(南島)モトゥエカの生産者も登壇し、それぞれの取り組みについてプレゼンテーションを行いました。前者は北半球で8月から9月にかけて、後者は南半球で3月から4月初旬にかけて収穫を行うそうです。
オレゴンのホップ農家は80%が環境認証を取得
まずはオレゴン州Willamette ValleyのGervaisにて、Scenic Valley Farmsを家族で経営するBrian Zielinski氏が登壇。およそ485haの農場で、ホップ以外にも小麦やワイン用ブドウ等、さまざまな作物を栽培しているという同農場の収穫期は6月から10月中旬ごろまで。ホップは10年近く、YCH向けに「Simcoe」「Citra」「Krush」を栽培してきたそうです。小さな株は今年3月に植えたばかりとのこと。
同農場の目標は、「Respecting the soil as a friend, not a tool.(土を道具として使うのではなく友人として尊重する)」。「私が今行っている仕事を私たちの子どもたちができる年齢になったとき、肥沃な土壌を使う機会を残すためです」と語るZielinski氏。同農場のホップは、水路を保護し、ホップ栽培過程で強い化学薬品が使用されていないことを保証する世界標準の環境認証制度「Salmon-Safe」認証も受けているとのこと。オレゴン州ではホップ農場の80%が同認証を受けているそうです。また、同農場はエネルギー消費を減らすべく施設で太陽光発電も活用。将来世代のために再生可能な資源を守ることも、業界では非常に重要視されているとしています。
今回の「Hop & Brew School」の2週間後にはホップの収穫がはじまるというScenic Valley Farms。それまでに収穫設備を掃除したうえで、ひとたび収穫がスタートすると、およそ3週間にわたって続くノンストプで24時間体制の作業が続いていくとのことで、「3週間のあいだ、私はおそらく1日3時間前後しか寝ません。大変ですが、その価値はあります」(Zielinski氏)。
畑で「Bines」と呼ばれるつる状の茎ごと収穫されたホップは、毎分およそ30本の「Bines」を処理するという猛スピードの摘果プロセスに投入されます。つるからホップの毬花をきれいに摘み取るためには、いくつもの異なる機械・工程を通して、葉茎や異物を取り除いていく必要があるそう。摘果プロセスを経たホップが乾燥機に入るまで、およそ5分。深さ30インチ、30フィート四方ほどの乾燥機で、およそ8時間乾燥させたホップは、100m×40mほどの床で冷却し、圧縮したうえで「Bale」と呼ばれる直方体の荷姿に梱包して出荷され、市場へ出る前に徹底した検査を受けます。畑にある状態から収穫後「Bale」になるまで24時間以内。そして、その「Bale」からペレット化が行われ、ビールに使われる製品となります。
ブルワーと生産者で密なコミュニケーションを
続いて登壇したのはMac HopsのBrent McGlashen氏です。Mac Hopsは昨年ホップ栽培125周年を迎えた、ニュージーランドでは比較的長い歴史を持つという農家。同国のホップ栽培は主に南島北部タスマン地方の、一部はホップ品種名にもなっているモトゥエカ(Motueka)、モウテレ(Moutere)、タパウェラ(Tapawera)、ウェイクフィールド(Wakefield)の4エリアで営まれているそうです。Mac Hopsのホップを受け入れているNew Zealand Hops Cooperativeは、25の農場が栽培するホップをまとめて世界へ販売展開。ニュージーランドのホップ生産量は世界全体の約1.5%に留まりますが、購入できる品種は豊富で、世界で200種類ほどの品種があるなか、およそ25品種を提供しているとのことです。
ニュージーランドのホップ収穫はすべて3月に行われます。「今年はかなり良いシーズンだった」(McGlashen氏)とのこと。100年に1度と言われる洪水が2回発生するほど降水量が多く、その被害はあったものの、ホップ栽培にはポジティブな環境だったそう。日照時間が長いニュージーランドのホップ品種は世界のどの地域のホップとも大きく異なっており、その理由の一つとして、地理的条件からオゾン層が比較的薄いため強い紫外線が届きやすく、作物に大量の光が届くことが挙げられるそうです。今年も収穫量は例年並みでしたが、「多くの光が作物の中にまで届いたため、とても高品質なホップを収穫することができた」というMcGlashen氏。直近3年間でα酸の数値を比べても変化はとても小さく、非常に安定した品質を実現しているとしています。
ただし、世界的に見ると、ここ2年間はホップ生産者にとってかなり厳しい状況が続いていると、McGlashen氏は語ります。供給過剰で販売価格が下がる一方、農場側のコストは、燃料、肥料、人件費など、すべてが大幅に上昇しており、「これは醸造家の皆さまにとっても危険な状況です。農場で問題が起きれば、その2年後、3年後に供給で問題が発生します」(McGlashen氏)とのこと。これに対してMac Hopsでは太陽光発電を導入し、それで年間8か月はすべてのエネルギーを賄える環境にするなどの対策をとっているとのこと。また、大量のエネルギーを使うホップの乾燥についても、環境面で最もコスト効率が高い木質チップを使っており、世界のホップ農場のなかでも最も炭素効率が高い農場の一つになっているとしています。
そうした取り組みを紹介したのち、McGlashen氏は醸造家とホップ生産者とのコミュニケーションの重要性について語りました。「皆さまの冷蔵庫に何が入っているか、いつ何を醸造したいかといったことが、私たちには分かりません。ですから営業担当者と密に連絡を取り続けてください」としたうえで、一例として「1年先については生産量の85%程度を、2年先については同60%程度、3年以上先なら同40%を契約しておくことをお薦めします」とのこと。供給不足になったとき、契約済みのホップをまったく持っておらず、「スポット市場で買えばいい」と考えても購入できない可能性があるためとしています。実際、McGlashen氏は過去に、ホップが手に入らないため農場を訪れ、滞在してまでホップを摘み取っている醸造家を見たことがあるそう。「市場が厳しい環境にある時期は、とても慎重にならなければなりませんし、生産者とのコミュニケーションが大変重要になります。そうしたコミュニケーションを取るために私たちは本日やって参りました」と締めくくりました。
「Hop & Brew School® Satellite: Japan」概要
- イベント名
- Hop & Brew School® Satellite: Japan
- 開催日
- 2026年8月4日(火)
- 開催場所
- YEBISU BREWERY TOKYO
東京都渋谷区恵比寿4丁目20-1 ガーデンプレイス内 - 主催
- Yakima Chief Hops
- 共催
- サッポロビール株式会社、片岡物産株式会社



























